CULTURES’ BackPacker vol.7「歌は感情なのです。」

歌手ってなんだろう、と考えます。

あたしは三味線奏者である人生が圧倒的に長い、というか人生のほとんどを三味線や民謡と共に過ごしていて、そこでの賞賛や葛藤があって評価を頂くことが多かったためか、歌手として褒められることが未だに、ちっとも慣れません。慣れないけれど、いろんなところで確かに、自分はもう立派に歌手の一人として思って頂いていることを噛み締めて演奏しています。

自分自身の感覚はともかく、良い歌かそうでない歌かは、自分が声を吹き込んだ曲であろうと他人の曲であろうと分かるし、なぜ素晴らしいのか、なぜメロディが良いのに心に刺さらないのか、ジャンルを問わずに概ね自分の中に答えがあります。

 

歌は感情なのです。楽器とは違う感情表現機関。楽器を扱うからこそ分かるところがあります。楽器は、歌では伝わりにくい音のニュアンス、たとえばハーモニーやアタック感、伸び感や華やかさをそれぞれの楽器の特性を活かして奏でることはもちろん、声ではない音の成分を奏でて雰囲気や土地柄、歴史背景までも伝えることが出来るのです。耳で聴いているだけなのに、瞼の奥には景色が広がり、フィルムやセピアになったり、ピンクが強くなったりもするのです。とても面白くて、表現は世界中にある、まだ知らないものもたくさん。

 

だけど歌にしか出来ないこともあります。楽器で背景や情景は伝えられたとしても、直接的に”言葉”を訴えかけることができません。歌は感情そのもので、歌手はストーリーテラーであり、役者なのです。演じるのは架空の誰かでもいいし、自分自身でもいい。それは自由そのものなのですが、楽器がそれを訴えかけられない時があったり、聴き手に委ねることしか出来ない生々しい部分であったり、ロマンを具体的でも抽象的でも表現できる。それは、歌だからこその魅力だと思います。

 

楽器はその時の自分の年齢や感情、テンションによっても演じる役は変わります。仲間が違えば、また変わるのです。

 

歌はその時の自分の年齢や感情が在ったとしても、ある時にタイムワープしたり、特定の誰かになったり、それこそ過去の自分に戻れたり、そんな時間の旅を出来たりもする。変身だって出来るのです。

 

さて、ここのところ歌の上手い人が増えてきた理由の一つとして、ピッチ修正精度が上がってお手本となる楽曲の完成度が上がり、一般リスナーはそれを真似ようとするので、必然的に歌唱力の高い人が増えてきたと考えます。

 

もちろん過去の名曲が完成度が低いわけでは決してありません。ただ、過去の曲はより人間らしい状態で歌が遺されているので、歌手の人間像や生まれ持った声質の細かなところまではコピーできない、というのが現実でしょう。

 

仲間がこんなことを言っていました。

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篠原涼子の「愛しさと せつなさと 心強さと」が去年末にリニューアルリリースされて、確かに歌唱力も良くなっただろうけど、オリジナルには、ピッチの当たらないところにグッと来ていた人も多かったはず。

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それを聴いてなるほどなと感心する他ありませんでした。聴き直してみましたが、確かに良くなっています。ただあたしはこの曲に強い思い入れが無かったため、そんな風に思う余地もなく、この曲を好きだった人は若き篠原涼子に恋焦がれていたからこその感情だと思います。

 

歌は感情なのです。感情が見えず、ただ高得点や良いレコーディング録れ高を狙う人も多い。とはいえ、感情を込めているつもりでも技術に偏った努力をしてしまうと、本質が埋もれてしまうのではないでしょうか。ただし、得点がついてこその競技は存在し、競い合った事で生まれるキャリアもあり、それで仕事を獲得している仲間が何人もいます。

 

たとえばそれを思い切り楽しむには、歌い手の後ろに得点が変動するのが見てわかるパネルや、審査員の表情が分かるワイプで映し出されたらフル尺分を聴くのに退屈しませんし、むしろ盛り上がります。パーティーの余興でソロプレーで歌った時、感情が動かないものを1コーラスも聴けば、たとえば残り約3分、何を期待して何を楽しめば良いか分からなくなる。これが感情が動かないものの欠点です。

 

得点化される音楽とフィギュアスケートのショートプログラムは似て非なるもの、といつも考えています。

 

フィギュアスケートはあくまでスポーツの側面が大きく、テレビではアイスショーよりも試合の方を観る機会が多いのではないでしょうか。観る機会が増えればその試合のファンも増え、国民的認知度も上がる。そうすると、どんなものが難しい技で、それを成功させるにはきっと血の滲む努力をしているはずだと想像し、成功する瞬間を見逃すわけにはいかない、と多くの人は感情が動かされていきます。

 

歌唱の得点は、原曲が分からなければどこで難しいポイントがやってくるかも分からないし、難しいと感じる部分は人それぞれかもしれません。どのくらい練習したのかよりも、天性の才能に期待をするひとが多いはずです。それはあくまでオリジナルではなく、誰かが既に感情でもってヒットを出してきた歌のおけるメロディラインを、電子的に得点化きれる小技を随所に置きながら、変に感情を出してミス減点されるよりも、練習通りに”まっすぐに”歌い上げるから。

 

それら競技歌唱と、パフォーマンス歌唱の違いを区分しないと本当の良い歌を届けることはできないと思うのです。

 

あたしは三味線弾きとして、得点や技術の世界に長らくいました。自分のキャリアが上がれば上がるほど、違う畑の高得点技術者に出会う事も増えます。

 

テレビで放映されるカラオケ選手権で優勝した子は、感情の源に気がついた頃には、オリジナルを出すよりも”誰に似てる”ということでモノマネ歌手として価値を見出され、そのプロの道を歩んでいくことになりました。

 

「歌うま」だとあたし自身が言葉をかけられたら、悔しくなる気がします。「君の歌が好きだ」。これがいちばんの褒め言葉です。

そんなあたしは時々、スーパーアイドル松浦亜弥のミュージックビデオやライブ映像を見て、画面越しながら心を震わせています。

 

2023.9.10掲載

執筆:Shinobu Kawashima

 

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